[研究会]ツバメゼミ

2016.09.28

議論する場、知識を蓄える場。

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第四回ゼミ『Interaction of Color-色と色の間でおきていること』ゲスト:加藤幸枝氏(有限会社CLIMAT取締役)(専門:環境色彩計画)

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第三回ゼミ『Structure/Urban Geometry 構造デザインとコミュニケーション』ゲスト:渡邉竜一氏(NEY & PARTNERS JAPAN代表取締役) (専門:都市、構造デザイン)

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第二回ゼミ 『Autonomy of Architecture』ゲスト:千葉元生氏(専門:建築意匠)

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第一回ゼミ 『インフォーマル ―かたい都市とやわらかい都市―』ゲスト:石榑督和氏(専門:都市史・建築史)

第四回ゼミ『Interaction of Color-色と色の間でおきていること』

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ゲスト:加藤幸枝氏(有限会社CLIMAT取締役)(専門:環境色彩計画)

レポート:伊神 空(横浜国立大学理工学部建築都市・環境系学科4年)

第四回ツバメゼミでお招きした加藤幸枝さんは、日本でも数少ない色彩計画家として公共事業をはじめとした多方面で活躍されている。今回は『Interaction of Color-色と色の間でおきていること』をテーマに、色彩と都市環境について基本的な理論から日頃の実践まで充実したお話しをいただいた。

理論:二つの色を並べると

図1
【図1 同時対比】

図2
【図2 同化現象】
まず、基本的な色彩理論について、今回は特に環境の中で日常的に起きている“同時対比”と“同化現象”について詳しくご説明いただいた。“同時対比”とは、色相や明度・彩度が異なる2色を並べたとき2色の中においた同じ色がそれぞれ周囲に影響を受けて異なる色に見えるという現象をいう。例えば図1の小さい正方形のグレーは左のほうが明るく見える。この効果によって山に囲まれた場所に建つ白い建物と比較的明るいグレーの都市空間に囲まれた白い建物では、同じ白でも見え方がかなり変わるという。“同化現象”は“地”の色がそれより面積の小さい“図”の色に囲まれることで“図”の色寄りに見えてしまうという現象をいう。こちらも、図2を見ていただくと一目瞭然だ。
実際の色彩計画にあたってはゲシュタルト心理学の群化の要因と、色彩の分節化を組み合わせて利用することもあるという。近いものはまとまって見える性質と同じ(または類似)色はまとまって見える性質とを同時に使うことで、例えば等間隔に並ぶ分譲住宅や団地にまとまりをつくったり、街路的使われ方を誘導したりできる。また、このように配色に論理的で効果がわかりやすい理由があることで対クライアントや地域住民等との意思決定や合意形成もスムーズになるという。

図3
【図3 群化の要因と色彩による分節化を環境計画に応用した例の模式図】

教育:色と形

加藤さんは2007年から武蔵野美術大学、静岡文化芸術大学の2校で非常勤講師をされている。武蔵野美術大学では、第1課題で3原色の照明と任意の物体を用いて様々な条件下で変化する光色・色影の見え方を考察する「Color light」、第2課題では身近な素材から色の特性“のみ”を抽出し再構築する「material/color」、第3課題では色彩と形態の関係を研究したカール・ゲルストナーなどの芸術家の作品を参考にして立体における色彩現象を表現する「space color phenomena」と、課題を経るごとに対象を平面から立体に拡げてゆき、体験を通して環境と色彩の結びつきとその調節の仕方を身に付けるカリキュラムを展開している。

ここで加藤さんが重要視しているのはフランスのカラリスト、ジャン・フィリップ・ランクロがいう「形から色を切り離す」というものの見方である。形と色をいったん分けて見ることで、純粋に色同士の関係性に目が行き、そこから改めて形と色を組み合わせること試みている。塗料や印刷技術の発展で建築、ランドスケープの分野でも素材とは無関係に多様な色彩を選択できるようになって久しい。しかし、そのような状況下において、様々な状況を考慮して色を決定できる方法論や安定した文化はまだ生まれていない。「(色を)決めるため、納得してもらうための論理が世間に不在であることが問題」と加藤さんはおっしゃった。論理的なパラメータが複雑で多くの人がセンスや印象のみで判断していることが、色彩の民主主義的な決定を機能不全にしている中で、色の決め方についての新しい判断基準の共有が求められている。それは加藤さんが実践しているような、数ある色彩理論をかみ砕いたいくつかの評価軸なのかもしれない。

図4
【図4 加藤さんの授業での演習風景】

実践:色の操縦法

世界各地、様々な都市の色彩環境を見ていくとその地ならではの特定のロジックを見出すことができる。例えば日本の伝統的な街並みは、色相(色味)を揃えトーンに変化を付けた色相調和、フィレンツェは色相調和に色相が少し離れた色味を足した類似色相調和、ちなみにディズニーランドには専用のカラーチャートが存在し、そこでは多色相を用いたトーン調和が使われているという。

図5
【図5 類似色相調和で彩られたフィレンツェの風景】

やはり、都市の色彩環境となるとカオスと評されがちな東京の配色原理についても話題にのぼった。確かに東京には色彩の調和は見出しにくいのだが、基調となっている高明度・低彩度色には一定の比率が見られそうであるとの加藤さんの話に続き、議論の中からは色とは別の選択原理が結果的に色を決めている事実への興味が見いだされた。例えば、環境性能でサイディングやカーテンウォールを選ぶ流れが主流になるとそれに伴って同系統の色が街に蔓延していくなどの現象である。他にも、コストを選択原理としたときに決まる街の色味なども考えられそうだ。このような建築における選択原理と色彩の相関を知ることで、都市の色彩に対してもっと積極的に関わっていけるのかもしれない。
より良い都市の色彩環境というものを一意に決めることは様々な意見があり難しい。しかし、その中でも今回のゼミで興味深かった言葉がふたつある。ひとつは、「沢山あって目に飛び込んできやすいものとして農村の自然に対して都市は人だ。だから、農村ではアースカラーが、褐色系の人が多い南米の都市には彩度の高い色が、東京には彩度を落とした淡い色が調和しているのではないか。」という山道さんの意見。もうひとつは、「自然界では地表近くにある命あるものが鮮やかな(彩度の高い)色を持っており、その面積は小さい。都市環境もそのような自然界の色彩構造にならって設計をしていきたい。」という加藤さんの指針だ。

図6
【図6 様々な要因で形成されていく東京の風景】

※図版出典:すべて加藤さんのパワーポイント資料より

第三回ゼミ 『Structure/Urban Geometry 構造デザインとコミュニケーション』

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ゲスト:渡邉竜一氏(NEY & PARTNERS JAPAN代表取締役) (専門:都市、構造デザイン)

レポート:川田実可子(日本大学大学院古澤研究室修課程2年)インターン生

絶妙なバランス感覚

1つ1つのプロジェクトについて、様々な切り口で語ってはいるが絶妙にバランスをとっている印象をうけた。例えば、配置計画上では強い幾何学形態であるが、ヒューマンスケールにおりてくると、構造的な合理性から柱を落とす事で、開放的な空間を演出し、さらには柱自身を、風景であり背景である空の色に寄せることで自身の存在を溶かす操作を行っている。

つまり、構造上の合理性と視線の抜け、背景との調和と芋づる式にすべての物事が絡まっている状態である。そのため、説明を行う際は、絡まっているもののどこをどれだけ見せ、見せないのかをその場の雰囲気によって語り口を調整し、バランスをとっているようだった。

この采配によって、聞く人ごとに異なる興味のフックに上手く引っかけていた。様々な角度から考えられた渡邉さんのキャノピーや駅、橋は、多様な人々の関心をそれぞれ惹き付けているのである。喋り方や作品までの一貫した絶妙なバランス感覚が多くの魅力的なプロジェクトを支えているような気がした。

14315755_1090688127686738_1981275552_o柱の色が空の色に同化する三角のキャノピー(photo:momoko japan)

合意形成と信頼

渡邉さんのプロジェクトは行政や地域がクライアントになっているものが多く、ワークショップ(以下WS)等の機会も増えているという。WSは近年、建築分野において珍しいことではない。施設機能の要望や具体的な寸法決定等、設計に反影させる手段として設けられていることが多い。

そんな中、渡邉さんは信頼を得るためのコミュニケーションの場としてWS捉えていた。実際にWSへ参加し、住民の方々の話を直接聞き話す事で、どんな人が橋を架けようとしているのかを住民が認知し、そこで『信頼』を獲得する。そうすると、そこに橋が架かる事やデザインに対する不信感は消え、「渡邉さんがつくったんなら」という『信頼』によって、橋が架かる事やデザインへの合意が得られることで『合意形成』を図れているということに気づいたという。いつの間にか、WSを設計に反影させることが正義だという概念を持っていたように思う。

もちろん、住民の意見を聞き、取り入れることも必要であるが、取捨選択をし、検討・調整を行うことも必要である。今回の渡邉さんのお話を聞く事で、少し気が楽になると同時に、モノをつくることには多くの人が関与していること、周囲の人との信頼関係があらゆることを円滑に進める鍵となることを再認識した。

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出島表門橋(CG:株式会社かたち)

空気と雰囲気

レクチャー内で「かたちが生み出す空気感」という言葉が出てきた。雰囲気としてはわかるが、なんとなく違和感のある言葉だった。そんな時、腑に落ちる話が参加者の中から挙った。空気と雰囲気は似ているようで異なるという話である。『空気』とは人間関係に対しての言葉であり、ヒトが発するムードのようなものを指し、『雰囲気』はモノが発するもので、そこにヒトは介在しないというものである。これを加味すると「かたちが生み出す雰囲気」が妥当だと感じる。しかし、あえて『空気感』という言葉を選んでいるのは、かたちに主体性が込められているかではないかと感じた。

コミュニケーション全盛時代である現代の社会において『空気』とは空気を読むに代表されるように「空気を読む=ひとに同調すること」としての認識されている。一方で渡邉さんは『空気』を同調ではなく、あえて空気を読まないという楔を打つような意味で使用している。デザインとして同調するのではなくあえて空気を読まないことで新たな空気感をつくりだそうとしているのだ。

1つのモノをつくる事で新しい空気感をつくりだす。それこそが渡邉さんの仕事だという。今後の多様なプロジェクトで展開される、同調でない、心地よい空気感を楽しみにしたいと思います。

 

第二回ゼミ 『Autonomy of Architecture』

ゲスト:千葉元生氏(専門:建築意匠)

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第2回ツバメゼミは、ツバメアーキテクツで建築家として活動されている千葉元生さんによるレクチャー。参加者は多様な分野からの専門家や学生にお集まりいただき、活発かつ自由な議論が飛び交った。今回のテーマは、『Autonomy of Architecture (建築の自律性)』。建築がもつ自律性について、幾何学的性格の強い正方形平面をもつヴィラ型住宅作品の参照と修辞の研究をもとにレクチャーが行われた。

建築の参照

建築を考えるとき、周辺の建築類型や街並みを参照し、現代の環境に合わせて変形する設計手法に好感を持つという千葉さん。スイスの建築家ピーター・メルクリのオーダーを参照した作品や、イギリスのサージソン・ベイツのデタッチドハウス、トニー・フレットンのレンガ造りの街並みを参照したレッドハウスなどが事例にあがった。このような興味から千葉さんは、アンドレア・パラーディオのヴィラ・ロトンダと現代におけるヴィラ型住宅作品の参照関係に関する研究をおこなったという。sergison batesDetached House/Sergison Bates

ヴィラ・ロトンダとヴィラ型住宅作品

アンドレア・パラーディオのヴィラ・ロトンダという世界で最も有名な住宅と称される、正方形平面のヴィラがある。パラーディオによれば、「円と正方形は最も美しく調和した形でありすべての形はそこから尺度を得ている。」という。また、現代においても開かれた環境に正方形平面をもって建つヴィラ型の建築は世界中でつくられている。周りが開かれた土地に対し、幾何学的特徴の強い正方形の建築をぽつんと建て、その中でどのように階段や水回り、窓などの住宅として必要な要素を納めていくのかということが、ヴィラ型建築を作る上で、建築表現の主題となっているようだ。千葉さんの研究では、周りが開けた土地に建ち、正方形平面を持つ現代の建築作品を「ヴィラ型住宅作品」と呼び、平面・立面から読み取れるヴィラ型建築の構成形式を分析した上で、ヴィラ・ロトンダとの比較を行い、建築の修辞を導いている。

Villa Rotonda Villa Rotonda/Andrea Palladio

立面・平面の分析

4面が同一であるという正方形の幾何学的性格に対して、平面・立面の構成によってどのようにその均衡を崩すか、あるいは保つかということから建築の表現を読み解くことができる。生活に必要な要素を設えながらも、窓の配置を4面同一にすることで、幾何学的な均衡を保つものや、ある立面を強調して偏りをつくるもの、対面する二面同士を同一にすることで偏りをつくりながらも別の均衡状態を保つものなど、正方形という形式がもつ自律性が、生活条件や周辺環境に対応しながらもつくりだす様々な均衡状態のあり方が明らかになっていった。事例の中でも興味深かったのが、ロバート・ヴェンチューリのブラントジョンソンハウス。傾斜地に建っているため南北で地面からの高さが異なり窓もバラバラで、平面は1,2階の中央を階段が貫き3階がワンルームとなっている。しかし屋根を見てみると、方行屋根で3面に半円形のドーマー窓がとりつけられ、残る1面に同じ半円形でつくった暖炉が取り付けられている。立面的に屋根でバランスをとっている例で、意図的にデザインとして幾何学を扱う方法として秀逸だと感じた。また、都会の中でヴィラを作ろうとしたアトリエワンのアニハウスや、光庭を分散配置させ立面に変化をもたせた西沢立衛のウィークエンドハウスなどの有名な現代建築も、平面と立面の構成形式から見てみると設計者の意図や幾何学の調整の新しさを読み取ることができた。Brant Johnson House_01Brant Johnson House/Venturi Scott Brown & Associates

風景にとかす操作

デザインの中で幾何学を整えていくことと周辺(街)になじませることについていくつか議論が上がった。橋梁デザイナーの参加者の方からは、幾何学的性格を必ずもってしまう橋や駅などの構築物・都市インフラのデザインをする際に、屋根を薄くする、柱を細くするなどの風景になじませるためのちょっとした操作を行うことで、幾何学の強さを保ちながらも街になじませることを実践しているという。また、スケールを大きくしてみた場合、都市の街区形成等を周辺環境として読み取ると、街区がグリッド状のニューヨークと複雑な形状の東京では異なる線路や駅の形の在り方になるであろうという千葉さんからの意見もあり、都市インフラにおいても幾何学形状のあり方は、平面と立面の構成が決定づけるのではないかという点で異職種間でのデザインにおける共通項が見られた。

建築の自律性

建築の自律性とは何かに関する議論には参加者の方々からの様々な意見があった。

参加者の方からは、調整とは先に決めたルールに対して行う操作だとすると、設計において先に決めるルール=自律性なのではという意見があった。また、先に決めるルール次第では形態としての自律性もあればふるまいの自律性もあるのではないかと。一方で、千葉さんからは建築の自律性とは、設計者の意思とは関係なく、自分が決定するよりも前にすでにあるものではないかという意見があった。例えば建築のタイポロジーの中にすでに内在しているものなのではないかと。前者の意見は、現代建築の設計手法ならではの現象なのではないかと感じた。それは最初に決めるルール=タイポロジーではない現代建築ならではの、自律性の所在の変化とも感じられた。

建築家としての在り方

上述の建築の自律性、タイポロジーの議論を経て、参加者の間で他のテーマが出てきていた。それは建築の作り方や思想から見るこれからの建築家としての在り方を探っていたようだった。ひとつは「新しさの作り方」。建築家の作品は、皆どこかで新しさを見出そうとしているものだが、その作り方は2種類ある。1つ目は今までに見たこともない形態や形式をとっているような、いわゆる斬新なデザインを発想する方法。2つ目は既にあるタイポロジーの関係を組みなおして新しさを生み出す方法。ツバメアーキテクツの場合は比較的後者の方法で新しさを生み出そうとしているという。確かに前者の方法では流行や時代に左右され持続性の欠如があり、建築の本質として本当の意味で新しさを生み出していないのではとも感じられた。しかしそういったデザインや建築家も必要とされているのも事実だという意見もあった。次にあがった議論は、「日本の現代建築界の潮流とは」。そこでのキーワードはリノベーション。日本は昨今リノベーションブームと言われているが、それは何十年も前からリノベーションを実践してきた欧米諸国に比べると極めて貧弱なものであろう。しかしここで既存建築物の耐用年数が短い日本におけるリノベーションの意味を考えると、現在発展途上で住宅供給の盛んな国のロールモデルになり得るという可能性や、建築寿命が尽きた建物が多くなる未来でのリノベーション、さらには新築の建物へのアプローチの転用としても検討・議論の余地があるという意見が出た。海外からの評価とは別に、日本ならではのリノベーション業界の可能性を垣間見られた貴重な議論であった。

以上、建築の自律性の話から、これからの建築家の在り方という大きな議論にまで発展した大変内容の濃い会であった。

レポート:泊絢香(明治大学理工学研究科建築学専攻I-AUD修士課程2年)インターン生

 

 

 

第一回ゼミ 『インフォーマル ―かたい都市とやわらかい都市―』

ゲスト:石榑督和氏(専門:都市史・建築史)

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第一回ゼミは、明治大学で博士(工学)をとられ、現在明治大学理工学部理工学助教として、都市史・建築史を専門に研究されている石榑督和さんを招いての会となった。都市の歴史の中から「インフォーマル」=近代都市計画や制度には含まれない、こぼれ落ちるものに焦点を当てたレクチャーが行われた。

かたい都市とやわらかい都市

副題に付く〈かたい都市〉とは石造で共有壁をもち、土地と建築が一体となった形式の住宅が主流である台湾のこと。〈やわらかい都市〉として木造で戸建て、土地と建築を切り離すことが可能な住宅が主流である日本のことを指しており、2者の都市のあり方についての話があった。日本は台湾を植民地としていた時代に、日本の市区改正の手法を台湾に施している。その際、道路を作ることにしか興味のなかった日本政府は台湾の住宅を切断し、そのまま放置した経緯がある。そんな切断面が人々の手によって、どのように反応しているのかという観察を通して、インフォーマルな状況を類型化していた。

そこで感じたのは、台湾の人々の柔軟性である。自らに与えられた建築の形態や土地の形態、状況を自分なりに乗りこなしているようにも見受けられた。一方日本では建築と土地を切り離し、飛び職人の技術を都市計画に用いて、曳家で移動させるという手法がとられることにより、住宅は道路によって切断されることなく、別の土地に移動する。関東大震災後、この手法で20万棟もの建物が移動したという話には驚いた。

同じ計画で始めたとしても、建築の形式や人々の慣習によって町並みが大きく異なるということを認識した。

Fig1Fig1.市区改正によって切り刻まれた台南の町家。(2015年撮影)

インフォーマルの存在

 戦後復興のヤミ市のインフォーマルな状態が、一時的なまちの復興を担っていたことにも言及していた。またその状態は新宿や渋谷、池袋など、東京の都心のどこにも見られた状態であった。このような猥雑な状況、インフォーマルを感じられる状況に人々が魅了され、見直されていることも事実である。しかし、大規模建築をつくりだす近年の都市開発では、このような、猥雑な状況を無視した計画が少なくはない。更に、その土地や建築を持つ人々からすると、煩わしさから、早く手放したいという声も多く聞こえる。文化的な価値でしか主張することのできないインフォーマルな状況を保存、継続させるための方法はないのかという話にも至った。建築家 澤田航さんからは建築単体での解決はなかなか困難なため、経済が成立する程度で強権的に政治の力で残して行くことが必要なのではないか、色彩計画学を専門に扱う加藤さんからは都市空間を公のものという認識ではなく、個人のものであるという意識を個々人が持つことが必要なのではないかという意見が出た。というのも、アメリカでは、ボランティア活動は一般的で、抽選で選ばれるボランティアの数が溢れるほどだと言う。ボランティア教育を幼いころからされているアメリカの人々にとっては、公共を自らのことのように捉えることが当たり前の慣習と化しているとも言えるであろう。

Fig2

Fig2.新宿東口にできた和田組マーケット(http://www.geocities.co.jp/Milano/1765/m2/img/odu_01.jpgより)

「慣習」をどう乗りこなせるか

 上記の2つの章で共通して感じたのは、「慣習」という既に築きあげられている揺るがないものである。これを大きく変化させていくことは果てしなく困難であるように感じる。それこそ強権的な、政治という大きな枠組みで「教育」や「制度」として整備することが必要になるのかもしれない。しかし、私たち建築の分野からこのことを捉えるとするならば、日本人に染み付いた「慣習」をいかに乗りこなしながら、計画や建築、新しいコトを仕掛けられるかを考えてみたいと感じた。それによって、人々の慣習が少しずつ変化することもあるのかもしれない。

Fig3

Fig3.駅前ひろば整備のため取り壊されつつある下北沢前食品市場(闇市が起源)(2013年撮影)

レポート:川田実可子(日本大学大学院古澤研究室修課程1年)インターン生