ツルガソネ保育所・特養通り抜けプロジェクト

ツルガソネ保育所・特養通り抜けプロジェクト 社会福祉法人福祉楽団は、企業主導型保育事業の枠組みを利用し、運営する特別養護老人ホーム (以下、特養)の職員の子供を預かる保育所を建てることにした。保育 所の敷地は特養の北側に隣接し、住宅に挟まれている。

 

さらに、すぐ隣には高校がある。俯瞰的に見れば、児童、学生、職員、高齢者、近隣住民といった様々な世代の人たちが敷地周辺に集まることになる。しかし従来の施設計画では、彼らが出会う機会を生み出すのは難しい。社会制度によってそのあり方が定められた保育所、学校、特養等の施設建築は、特定の機能や目的に特化する事によって効率的な運営を成立させているが、一方で施設のタイプがそこにいるべき人々のタイプを規定してしまい、敷地の内側に閉じ込めてしまうからである。このことによって地域のつながりも、敷地ごと、施設ごとに細分化されてしまっているのが現状である。

 

ここでは、保育所とともに特養までを通り抜けられる道を通し、多世代の活動を定着させることで、敷地を超えた人々の関係性を生み出す空間をつくり出している。まず保育所を、東側に開くL型の構成で、前面道路に寄せて配置。大きな軒下空間を設け、通り抜けの入口としての構えをつくりだした。

 

軒下空間は方形天井とし、ベンチ、ゲームや携帯電話の充電ができるコンセント、自動販売機、AEDや機械警備を設えている。軒下の土間は保育所内部に連続し、誰でも利用できるトイレが隣接する。保育室からは、デッキ、スロープを通って特養の居間コーナーに接続。園庭を通り抜けた位置にある、職員、入居者が利用する特養会議室の壁を撤去し、デッキと掃出し窓を設けることで、裏となっていた場所に居場所をつくりだした。さらに隣地の畑に接続する抜け道や、バスケットコートを設置。コートと対面する、フェンスと植栽を取り払い、高齢者が眺められるようにした。もちろん、地域への開放とともに、特養と保育所の消防設備や機械警備を連動させ、包括的な防犯・防災対策にも配慮している。

 

道の開通後に現地へ訪れると、多世代の人々が交流する風景に出会うことができた。このプロジェクトでは、人々の多様な活動に応えるような細やかな設えを、建築を起点に連鎖させる社会構築的なアプローチを試みている。児童が遊べるデッキや高校生が集まるバスケットコートが、高齢者の窓辺と向かい合うといったことは、通常の施設建築の枠組みではこぼれ落ちてしまい制度化されないことである。しかし、こうした人間の身体性にもとづいた活動を連関させていくことによって、細分化された人々や地域を結びつける空間を生み出せるのではないだろうか。

用途:保育園・特別養護老人ホーム
規模:木造平屋
設計:山道拓人、千葉元生、西川日満里/ツバメアーキテクツ
構造:江尻建築構造設計事務所
協力:照明シミュレーション:和田遼平(パナソニックライフソリューションズ社)
施工:富野工務店
施主:社会福祉法人福祉楽団
竣工:2017
写真:長谷川健太
FUKUSHI-GAKUDAN(1~3)
掲載:新建築2017年7月号