阿蘇草原情報館

資源の連関を支える拠点

草原が広がる阿蘇の外輪山は、国立公園に指定されてから2015年で80周年を迎える。

 

美しい草原の風景は、畜産を始めとする人々の農業活動によって造り出され、維持されてきた。草原は牛馬の飼料を提供し、厩舎の敷料となり、牛馬の糞から作られる堆肥が田畑に使われるというように、人々の暮らしに資源を提供し、さらにはその美しい風景が観光資源となって阿蘇に賑わいを生み出した。このように阿蘇の暮らしは外輪山に広がる草原との相互連関のなかで成立してきた。しかし、近年、農業の衰退化や高齢化等により、草原の風景が失われつつある。

 

こうした背景から、地域の草原保全活動を支えるための施設として、「阿蘇草原保全活動センター」が構想された。「阿蘇草原保全活動センター」は、環境省が管轄する「草原学習館」と、阿蘇市が管轄の「草原情報館」からなり、この両施設を地域で草原保全活動を行う二つのNPO団体が運営する。我々が、情報館の計画を依頼された段階では、先行して計画されていた学習館に、草原に関する展示など、草原について知り、学ぶことのできる機能が配される事が決定していたが、情報館に関してはNPO団体の事務所以外の機能は模索中であった。そこで、阿蘇市との協議、地元NPO団体とのワークショップを経て、保全活動や観光等、草原に関する情報を提供する総合受付、各種イベントを行う事のできるワークスペース、広場などの機能を提案した。例えば、野焼きのボランティアの参加者が、学習館の展示から野焼きについて学び、NPO団体の指導のもと広場で体験学習をして、実際に草原で野焼きをする。その後、ワークスペースにて報告会やワークショップを行う。などというように、両施設が連携することで草原での様々な活動の出発点にも、終着点にもなるような計画としている。

 

草原学習館との連続性、阿蘇の景観との調和、広場や駐車場など外構計画への配慮から、周囲に多く見られる農事小屋型の建築のように架構が反復し水平に広がる建物が、雁行して連なる形式が導かれた。また、両施設の中心に位置する総合受付、ワークスペース部分は機能的にも中心となるため、屋根を隆起するように高くして垂直性のある空間とし、メインエントランスとしての中心性を持たせた構えとしている。

結果として、二つの建物の屋根が尾根のように連なり、外輪山の雄大な山並みの風景と調和した外観が生まれている。

所在地:熊本県阿蘇市
用途:地域受付、事務所/新築
規模:木造平屋建
延床面積:648㎡
設計:千葉元生、西川日満里、山道拓人/ツバメアーキテクツ+アークス計画研究所+メッツ研究所
構造:金箱構造設計事務所
施工:田上建設
施主:Aso,Kumamoto
竣工:2015.4
写真:長谷川健太,ツバメアーキテクツ (7,8枚目)