京都東山区に建つホステルの計画。敷地は中心部から離れた住宅地の中にある。周辺ではぽつぽつと、ゲストハウスやカフェなど観光客向けの施設が新しくオープンしている様子が目につく。インバウンドが急増していく一方で、高齢化によって空き家や空き店舗が増加するという状況が結びつき、住宅地が住民と観光客が入り混じる場所に変化しているようだ。そこに建つホステルはどんなものであるべきだろうか。例えば、目新しい建物を建てることによって、観光客の注目を集め、集客力を高めるという戦略がありえる。しかしそれでは、住民と他所者という対立的な図式を強調してしまい、お互いにとっていい環境はつくれない。むしろその建物が建つことによって住民と観光客が良好な関係を築ける場所にしたい。そのために、住民が普段慣れ親しんだ住宅のようにつくり、観光客はそこに泊まって地域の暮らしを追体験できるようにしてはどうか。近隣の住宅、それは町家である。町家という建築形式を拠り所にして、住民も観光客も共に暮らす。町家に暮らす観光都市である。
敷地は間口6m、奥行き35mのいわゆるウナギの寝床と呼ばれる形状で、美観地区の指定を受けている。十分な採光、通風を確保するために、建物を東棟と西棟の2棟に分け、中庭を介して並ぶ構成とした。両棟を繋ぐように通り庭を設け、そこに面して東棟1階にはホステルの入口、西棟1階にテナントを計画。2階は奥行きのある形状を利用して、二段ベッドが反復するドミトリー形式の客室とした。通り庭には吹き抜けと天窓を設け、町家の特徴である水平方向への連続だけでなく垂直方向への視線の抜けを確保。これによって2階の客室や奥のテナントへ向かう人の視線が行き交うようになり、用途がハイブリッドした町家の中心的な場として通り庭が位置付けられた。水平方向の連続性と高い耐震性を両立するために構造はSE構法を採用し、短手に壁の少ないプランを実現している。特にテナント部は後から壁を足して、3店舗まで増やせる計画となっている。また、施主が材木会社であったことから、製品にしづらい材料や現場での端材を内装や外装に転用した。
完成後、近隣住民に建物を案内する機会があった。こうした施設にセンシティブな住民からは、管理や運営に対する要望の声は上がったものの、建物はこれならばと受入れてもらえたようだ。町家は住民にとっては馴染みの深いもので、観光客にとっては京都での暮らしを追体験できるものだ。家としての建築形式を、観光という視点から批評しひらくことでローカルとグローバルを共存させる、そんな設計を試みた。
所在地:京都府東山区
用途:簡易宿所/新築
規模:木造2階建
延床面積:240.2㎡
構造:千葉元生、山道拓人、西川日満里/ツバメアーキテクツ+津賀洋輔建築事務所
設備:NCN
外構:EOSplus、杉本設備設計
施主:オーワンコーポレーション
竣工:2018.5
写真:中村絵(1枚目ツバメアーキテクツ、最後の一枚 鈴木渉)
掲載:新建築住宅特集2019年3月号別冊