標高339mの壇山が中央に聳える豊島は,湧き水が多くあったことから稲作が行われ,瀬戸内海に面した豊富な漁場もあり,牛が200頭いたというほど酪農も盛んな島であった.また,加工しやすい凝灰岩(豊島石)も採れ,かつては多くの石工が暮らしていたと聞く.だが,戦後には3,000人を超えていた人口も,現在では約750人,高齢化率も50%に達している.瀬戸内国際芸術祭や豊島美術館の「ビルバオ効果」とも呼べる成果によって,コロナ禍以前には年間15万人以上もの旅行客が訪れたが,飲食や宿泊の施設が少なく,経由地になりがちで,観光が暮らしの領域にまでなかなか降りてこない.島の暮らしが守られているとも言えるが,関係人口や定住・移住人口の増加なくしては地域文化や資源管理の維持が困難なのは明らかである.こうした状況の中,建主であるアミューズは,山から海へと連続する立体農業の継承,6次産業化,その体験ツアーなどの事業を展開している.ホテル聚はそのための一つの拠点施設であり,彼らからの相談は,ホテルとして開業するが,行く行くは豊島で事業を展開するための社員寮としても使っていきたいというものであった.
住む人が、この建物での暮らしを通して島の一員になれるような場所とするには,商業的なホテルよりも,島の家に近いものがふさわしい.それは旅行客にとっても地域の暮らしを追体験出来る場所になるはずだ.そう考えて,島の家や集落の構成を参照し、それを共同体の内にも外にも開かれた開放的な空間へ組み替えていくことを計画の主題とした。
敷地は,港からほど近い家浦の集落の中にある。周辺にはスギ板貼りで瓦葺きの民家,倉が建ち並び,豊島石や瓦を土と交互に積み上げた土塀が特徴的な風景をつくっている.土塀に挟まれた路地は幅1~2mほどと狭いところが多く,歩いていると島の人のプライベートな領域に足を踏み入れたようで少し気後れするが,かと思うと急に塀が途絶えて庭が露わになるなど公私の境界が曖昧で,集落全体が有機的に連続している感覚がある.
こうした集落のいち部分を形成出来るように,敷地外周に細い路地を確保しつつ,中庭を内包するように4棟の建物を配置した.部屋へは路地から,中庭には建物同士の隙間からアクセス出来るようにした.加えて,路地-中庭を結ぶ半屋外の通り土間や,通り-中庭を結ぶ大開口のあるシェアリビングを設け,中庭の開放性を高めた.これにより,路地よりもむしろ庭の方が公共的であるような,周囲を歩いた時にも感じられた公私の反転が生まれている.内部から山並みや隣地の庭に視線が抜けるようにヴォリュームを調整し,これに合わせて居室の天井高を変化させ,部屋の反復の中にアクセントを生む.各部屋には庭に向けた出窓や下屋,通り土間を設け,プライバシーを保ちつつ庭と繋がれるよう距離感を調整した.2階に登ると,一方の窓からは周囲の民家の,他方には敷地内の瓦屋根が見え,集落の連続の中に居ることが実感できる.シェアリビングをはじめ,路地沿いのベンチや踊り場に面したカウンター,島の人の庭から分けてもらった植物を植えた庭など,旅行者,住民,島の人の交流が生まれるような居場所を散りばめた.また,真砂土とにがりを混ぜた三和土や豊島石を利用した什器,海洋ゴミを再利用したカウンターなど,島内の素材をできるだけ活用している.
集落と地続きにある家のような場所に,島の人も外の人も共に過ごせる開放的な空間があることが、観光と暮らしを結び、島内外の枠を超えたこれからの豊島の暮らしを考えるきっかけになることを期待している。
所在地:香川県小豆郡土庄町豊島家浦字中村1833 番
用途:宿泊施設兼社員寮
規模:木造2階建
延床面積:484.64㎡
設計:千葉元生、西川日満里、山道拓人、葉山 翔伍/ツバメアーキテクツ
構造:オーノJAPAN
設備:EOS plus
外構:FOLK
サイン:6d
施工:ミナモト建築工房
施主:株式会社アミューズ
竣工:2026.04
写真:morinakayasuaki 空撮 DAISUKE KOBAYASHI
掲載:新建築 2026.06