リノア北赤羽は社員寮として使われていた建物を147戸の分譲住宅へと改修した物件である。ツバメアーキテクツはその共用部の設計を担当した。
集合住宅の共用部、いわゆるコモンスペースは、公と私を緩やかに繋ぐ中間的な領域として位置付けられてきた。しかしその実は、セキュリティを過剰に高めるなどして、私の領域を公から断絶する役割へと陥ってしまいがちである。一方で、コモンスペースを排除することで階層性をなくし、公と私を連続させるような試みもなされてきた。しかし、それだけでは集合して住まうことの価値を生かしきれないのではないか。147世帯の人びとが新たに移り住んでくることが、まちをよくすることに繋がってほしい。コモンスペースを私の領域を拡張できる場所にして、また公の領域を呼び込める場所にして、住民と地域の人びとが暮らしのスキルを共有できるまちのコモンズにできないか、そんなことを考えて計画を進めた。
まず、住民に積極的に活用してもらうために、コモンスペースを暮らしの延長として使える場所に設えた。上層階のふたつの集会室は、大きなテーブルのある共用リビングと音楽やダンスができる防音室に、エントランスには可動キッチンやシェアランドリーを付随させ、その隣室には住民や地域の人が日替わりでお店を出店できるシェアキッチンを設えた。家の中では納まりきらない活動をサポートするために、可動であったり、ややオーバースケールであったりと、家具や設備に特徴が現れた空間となっている。さらに、この場所に住民以外の人も呼び込めるように,前面道路との境界を隔てていた擁壁と植栽を撤去し、全長49m高さ4.5mの都市的なスケールを持ったパーゴラを設えて、地域へ開かれた構えを生み出した。パーゴラ下には歩道のアスファルトや内部の仕上げを連続させ、敷地境界が曖昧になるようにした。
現在、シェアキッチンには、地元のカフェやこども食堂を運営する団体が入居し、近隣で働く人や子どもたちなど多様な人が訪れる場所となっている。また、住民主催の体操教室に、他の住民や地域の人が参加するといった動きも生まれている。販売した住戸はまだ1/3で、1年を掛けて順次改装、販売していく。この期間にリビタがコモンスペースの運用を試行錯誤して、活用を促し、組合に引き渡していく予定である。公と私の中間にあるコモンスペースではなく、住民も地域の人も自分ごととして参加できる、そんな空間を集合住宅が抱え込めれば、集まって住まうことがまちのコモンズを育んでいけるのではないかと感じている。
所在地:東京都北区
用途:共同住宅/改装
規模:SRC造地上12階 塔屋1階
延床面積:13,307.95㎡
設計:千葉元生 山道拓人 西川日満里 岡佑亮 廣瀬雄士郎/ツバメアーキテクツ (共用部設計・監修)
UG都市建築 (実施設計・現場監理)
クリマ (色彩計画)
構造:オーノJAPAN(パーゴラ構造設計)
サイン:狩野佑真 美山有
施工:コスモスモア
飛騨の森でクマは踊る(シェアキッチン家具製作)
石川製作所(エントランス家具製作)
施主:リビタ
竣工:2020.10
写真:長谷川健太
掲載:新建築2021年2月号