押上のビル PLAT295

産業的構法を用いて職住近接ビルをつくる

本プロジェクトは、シェアオフィス・シェアキッチン・賃貸住戸・オーナー住戸が一体となった5階建てのビルである。既存建築の建て替えが決まった時点で、ハウスメーカーが施工を担当することが決まっていた。下町の結節点となるシェアオフィスやシェアキッチンをつくりたいという施主の要望があり、建築に「ハウス」以外の用途が混ざることになった。ハウスメーカーの溝法を使いながらも、職住近接を実現するために施主の翻訳者のような立ち位置としてツバメアーキテクツが伴走することになり、施主・ハウスメーカー・建築家の3者で協働を行いながらプロジェクトが進行した。

 

ツバメアーキテクツとしてはデザインの「調整役」としてではなく、ハウスメーカーの構法を駆使することによって、汎用性高くかつ場所に寄り添った使い方を可能にする新しいバランスのビルをつくることを目指した。

 

プロジェクトが開始して以降、幾度となく持っていく提案に、メーカーによる制約が立ち現われ、その特徴を理解することから始まり、無足場工法をはじめとした狭小・角地への敷地対応力などの強みが解明された。そのノウハウを最大限に活かしながら、ルールに則りながらも従来の商品化住宅の枠を越えた新たなプロトタイプとなるような職住一体の建築を実現した。産業的構法の中で、シェアスペースやバルコニーなどの都市に開いた「活動領域」と「住戸領域」を均衡させたことで、コロナのような予期せぬ状況にも柔軟に対応できるようなビルとなった。

 

スパンを調整し、窓を大きくして換気性能を上げた1,2階部分のシェアスペースはコロナ禍でも活躍している。地域に住むyoutuberが撮影スタジオとしてシェアキッチンを使うなど、さまざまな使い方が使い手によって日々発見されている。

 

住宅部分も自由度の高い間取りにした。◯LDKといった不動産的な見栄えをよくするために部屋数を増やすというよりは、水回りを集約し、それ以外の領域を路地側に回し、スカイツリーに向けバルコニーもテーブルセットが置ける程度に大きく取った。廊下がほとんどないので、立面の窓がリズミカルに室内にも現れる。

 

職住がハイブリッドした様が立面にも現れるようにしたり、ルールを持ちながらも自由な配置の窓を強調するために額縁にしたりという細かい意匠もメーカーのタイル施工ルールの中で「ハリ分け」や「目地」を駆使することで対応した。

 

バルコニーの手すりは責任区分を分けオリジナルでつくった。スリットを開けロッド渡し、パンチングメタルで押さえ、各所に植物や飾りを付けられるようにした。また、これらの立面に出てくる特徴的な要素は、コーニス、ストリングコース、ポルティコなどパラッツォの要素を参照し形状を決定した。

 

メーカーの鍛錬された汎用性の高い構法の中で、建築家がその可能性を拡張するように実践することは社会にとってもインパクトを導くきっかけになるのではないか。

 

ハウスメーカーの構法をスタートポイントとして、建築家による応用、そして文字通り建築を立体的に使いこなす施主の実践が連なることで、新たな協働の可能性が見出されたプロジェクトとなった。

 

所在地:東京都墨田区
用途:住宅・コワーキングスペース・シェアキッチン/新築
規模:鉄骨5階
延床面積:379.70㎡
設計:山道拓人、千葉元生、西川日満里、鈴木志乃舞/ツバメアーキテクツ
+バルーン+パナソニックホームズ
協力:オーノJAPAN(手摺構造アドバイス)
パナソニックライフソリューションズ社 和田遼平(照明照度シミュレーション)
施工:パナソニックホームズ(建築)
アルファースタジオ(1・2F内装)
石川製作所(1・2F家具)
施主:バルーン
竣工:2020年
写真:長谷川健太 (長手立面のみ新建築社写真部)
掲載:新建築2021年2月号