マイクロバスケットコート ONE_THROW

コモンスペースを始める三元素

施主は住宅地にマイホームではなく、地域の人が使えるマイクロバスケットコートを作ることを選択した。住宅と自動車の関係を、そのままに、住宅サイズのバスケットコートのフレームとフードトラックに置き換えた。

ここでは、住宅地のような場所につくるコモンスペースの三元素として考えた
・一手目
・外部経済
・分人的リーダー
について書いてみよう。

 

[一手目]
所属に関係なく地域でバスケをプレイできる場所を作りたい、という施主の強い想いからこのプロジェクトはスタートした。というのも部活やサークルというまとまりは学校を卒業するとメンバーが散り散りになってしまったり、それを乗り越えるために社会人チームを作っても家庭ができたりするとなかなか参加が難しくなってしまうというからだという。そういう話を聞いているうちにこのプロジェクトが持つ住宅地におけるコモンスペースとしての可能性を想像するようになった。まずはバスケという一手目の条件に対し素直に、最大限配慮しながら仕様を決めていった。一見単なるアスファルトとフレーム建築のようにも見えるが、素材検討をする中でアスファルトだと音が大きく出たり、ドリブルの時に跳ねすぎると言った懸念があったために、透水性の下地材とゴムチップ舗装を組み合わせ、人々の振る舞いが際立つような配色にした。フレームは平屋よりは大きく2Fよりは小さい絶妙なスケールであることと、バスケのプレイが充分にできる高さを持つことのバランスを検討した。

 

[外部経済]
地域のコモンスペース作りのおいては、事業計画の外側ともいうべき経済活動をいかに生み出せるかということもポイントにある。上に書いたように、一旦バスケをするという目的で場所のクオリティを最大化したことで、二手目、三手目のコンテンツをも引っ張ってくることになる。具体的に言うと、ボクシングエクササイズ、ダンスなどの他のスポーツにも活動が展開している。またスポーツ以外にもダルマの絵付け、カレーコラボなど、つくる前にはこちらも予想できなかったコンテンツをも呼び寄せている。まさに事業計画や設計を取り囲む想定の外側の要素が混ざることで、むしろこの場所が発酵し始めているように感じる。

 

[分人的リーダー]
ではなんでもありか?というとそうではない。次の一手に意味があるか、相乗効果を生むか、をジャッジできるリーダーが必要となる。今回のリーダーは発注者であり、バスケットボールのプレーヤーでもあり、カフェ運営をする店長であり、全体の方向性を舵取りするクリエイティブディレクターでもある。予想だにしなかった展開には、複数のスキルを持つ分人的リーダーの存在がかかせない。

 

以上のような三元素の重要性を感じている。住宅地の日常の中に、人々の新たな振る舞いが突然出現してしまうことを考えると、デザインとしてはこの三元素を下支えしつつ、引き際や抑制が非常に重要になると考えている。配色・スケール・素材の切り替えなどは慎重に検討し、サイレントに、でもダイナミックに、というデザインの姿勢は、住宅地におけるタクティカルアーバニズムの作法として重要なのではないかと考えている。

所在地:宿河原
用途:バスケットコート・フードトラック
延床面積:80㎡

設計:ツバメアーキテクツ
構造:鉄骨
協力:株式会社 Yuinchu(運用・立ち上げサポート)
施工:スポーツテクノ和広

施主:ONE_THROW


写真:楠瀬 友将