緑道沿いの住宅

ホームベース型の可能性

西東京の豊かな自然に接して建つ住宅である。敷地の南側には、周囲より一段高い緑道が広がり、散歩道やサイクリングロードとして親しまれている。緑道は、近隣の公園から花や草の種が飛来し、さまざまな植物が自生する土手でもあり、四季の移ろいを身近に感じられる。計画地の隣に約30年前から暮らしてきた施主は、ここに自生する植物を庭木のように手入れし、日常的に関わってきた。緑道に面する他の住人も同様に植物の管理を行っており、公共の敷地でありながら、個人の関与によって良好な環境が保たれているのが特徴だ。

計画にあたっては、緑道からの明るさや気配を住まいに取り込むことに加え、1階に多目的に使える居場所を設けることが求められた。限られた面積の中で、土手、緑道、隣家、道路との距離を調整するために、ホームベース型が2つ隣り合う形を採用している。建物を南側に寄せることで、緑道側と道路側それぞれから庭をのぞめ、旧宅との間にもプライバシー性の高い小さな庭が生まれ、多方向に余白がある配置とした。

平面はがらんどうのメインボリュームと水回りや収納をコンパクトに納めたサブボリュームが階段を介してつながる。斜めの角度をもつ壁が、ワンルームの中に落ち着いた囲みと開放的な抜けを交互につくる。多方向に風景が広がる敷地に合わせて開口部を配置することで、視線の見合いを防ぎながら、南北の風や光、周囲の風景を空間の奥まで引き込む。断面は階高を抑え、土手の傾斜面に自生する植物をさまざまな高さからのぞめるようにした。サンルームからはシュロの木越しに旧宅の様子が窺え、テラスからは緑道の尾根とその先の住宅地を人々が行き交う様子が見える。1階の部屋は、お茶会や教室、作家でもある施主の作業場として多目的に使われる想定だが、将来的にはこのフロアのみでも生活が完結できるようインフラと動線を配置している。また、住まい方が変わっても、変わらず緑道の風景や彩光を感じられるように建具の仕様や窓の位置を調整した。

この土地の気候風土に長く親しんできた施主と新しい住宅を考えるプロセスは、四季の変化や暮らし方を具体的に共有し、編集していくものであり、リノベーションに近い感覚でもあった。古くから人が暮らす街に系譜があるように、住宅地においても、住まい手が長い時間をかけて環境と関わり続けることで、植物の手入れの仕方や視線の抜け、光や風との距離感といった感覚が、周囲と折り合いをつけながら少しずつ共有され、環境として蓄積されてきたと考えている。本計画で扱ったこうした感覚は、施主個人の経験に基づくものでありながら、緑道沿いに暮らす住民に広く共有されてきたものでもあり、その積み重ねが緑道の環境をよりよいものへと更新してきた。そうした土地がもつ潜在的な力が、自然と現れてくるようなあり方を目指して計画した。

所在地:東京都
用途:住宅
規模:木造二階建
延床面積:55.02m2
設計:ツバメアーキテクツ
構造:TSEC
施工:内田産業
竣工:2025.9
写真:鈴木 悠生
掲載:新建築住宅特集2026年3月号