コロナ禍が落ち着いた頃に設計を開始した家である。社会の想定がこの先もどう変わるか分からない時に、家の未来に分岐点を増やすことを主題として設計に取り掛かった。最終的に、切り離し可能なブリッジをもつ2棟の家というアイデアに至った。
比較的ゆったりしていて南北に2面接道している敷地に対し、母屋と離れの2棟のヴォリュームを建て、空中をブリッジで繋いだ構成をしている。それぞれの棟からキャンティレバーで成立しているブリッジは真ん中で切断することができる。そのブリッジを起点にし、閉じる、階段を付ける、切り離す、あるいはブリッジごと切り落とすなどといった一手を加えることで、家を残す/壊すの間が押し広げられる。将来的に子供が家を出たら片方の棟を地
域の若者に貸す、老後に自分たちが運営する店やクリニックをつくる、2棟をそれぞれ別の人に貸す、片方を庭にしてコンパクトに暮らす、相続などで止むを得ず片方の土地を売るなど分岐点の多さが描けると、建築が一気に壊され、街並みが細切れになるといった住宅地における新陳代謝の傾向をもシフトさせられるのではないだろうか。
そもそも、母屋と離れという構成を考えるきっかけになったのは、建主の夫の勤務地が数年ごとに変わるライフスタイルにある。勤務地に家族が付いていくサーカス団のようなスタイルから、子供が小学校に上がるタイミングで定住するための家が求められた。遠方の勤務地から月の半分だけ戻ってくる夫にとっては、むしろ宿のようにも感じるかもしれない。近くに住む祖父母も時たま泊まることを考えると、タイミングごとに住まい手がかなり変化する家ということになる。ブリッジで繋がれた母屋と離れという構成は、さまざまなメンバーシップにほどよい距離感を与えることができる。そのために場所ごとに多様な質をつくろうとしている。母屋は堂のように開けた窓と東に庭を、離れは地中に埋まりながら絞った窓をもち塔のように伸びていく。
さらに、全体の構成に対して追記される、ライフスタイルに対応した間取りや設えというのはほとんど依頼時の「暫定」であるから、2棟の内部に配されるエレメントは可動で仮設的なものも含まれる。子供部屋としてしばらく使いそうな母屋2階は再編可能な間柱のような壁とした。その割り方に自由度を残すために、吹抜けの階段は母屋2階の中央に到達すべく、天井から吊られブリッジが延長したようにニョキッと吹抜けに顔を出す。またブリッジには壁はつくらず引き戸にしており、周辺領域とセットで別の用途を喚起する。ブリッジが室のような広さをもつことと相まって、窓を開ければインナーバルコニー、窓を閉めれば母屋2階から連続した子供の遊び場、引き戸を閉めればオンライン仕事場、南側の引き戸を閉じ寝室の引き戸を開ければ寝室の拡張といったように、日常生活にも分岐点を増やし、早速楽しく使われている。
都市や建築のメタ的なイシューと、建主の住まい方や趣向といったベタともいえる要望は、どちらが先立つわけではなく、それらを架橋しつつもカテゴリーごとに流れる時間軸を編集したり、日々のサイクルを時たま開放端にできると、建築は持続的で柔軟な存在となる。それが今を生きる家の豊かさにも繋がるのではないだろうかと考えている。
所在地:東京都
用途:住宅
規模:木造二階建
延床面積:127.48m2
設計:ツバメアーキテクツ
構造:オーノJAPAN
設備:EOSplus
外構:en景観設計
協力:資金計画コンサルティング
アラウンドアーキテクチャー
施工:山菱工務店
竣工:2024.9
写真:shinkenchiku-sha
掲載:新建築住宅特集2025年1月号