六角橋の四軒長屋

シン・ナガヤに取り組む

六角橋は、駅を降りるとすぐ商店街が始まる。その一つに、戦後闇市の長屋を起源とした木造長屋が密集した「ふれあい通り」があり、木造アーケードに人や物が溢れる。商店街の先には通学路が重なり、アクティブな長屋が続く。この町は長屋によって暮らしの能動性が発露しており、住宅地に人が集まる風景が作られている。

 

ただ、古い長屋は防火、防音、耐震、断熱、光環境などの問題を抱える。例えば長屋は道に対して一階の間口を均等に多く並べることが優先されるため、二階の日照など居住性能の確保は後回しとなる。実際、賑わう木造長屋商店街の二階には人はほとんど住んでいない。また、長屋を使いこなせなかったり、引退するとどうなるか。店をやめればシャッターが降り、アパートに建て替われば路面のバルコニーには目隠しがつく。どっちに転んでも街並みはマスクをすることになる。

 

この街の未来を考えるために、複数の敷地に対し中長期的な検討を同時にラボ業務として取り組んだ。そのうちの一つの敷地がすぐ手がつけられそうだったので、次なる長屋のカタチを示すつもりで具体的な設計を行った。

 

敷地が三角形であるために、間口固定ではなく、区画毎の面積を固定することにした。そうすると「間口が広く浅い区画」から「間口が狭く深い区画」までの質の違いをシンプルな原則で作り出すことができた。同時に道路車線をかわすために折りさげた屋根も住戸毎に特徴を与える。多様な質を作ることで、様々な使い手が集まり、家と店の間が開拓されるだろうと考えている。また表通りに対して直交する敷地なので、そっぽを向いたのっぺらぼうにならないように、一階の雁行させた壁で奥行きを作った。表通りに向く部分は内外共にDIY壁とし、二階との差分による軒下は植物やベンチなどが溢れ出す余白にした。

 

さらに、上下階という長屋が備えてしまう構成を活かし住戸内においても積極的に質の違いを作ることを考えた。一階は路地に向く全面開口を備え、燃えしろを備えた強靭な木架構の下でダイナミックな活動が展開される。西を向く二階も、食う・寝る・仕舞うだけにならないように、ボリュームに窓を食い込ませ午前中から光を取りに行き、構えに陰影を作る。ロフトを持つ4mの多角形の空間を光や風が横切り、窓を開けても隣家とは目線が合わない。コロナ以降の長屋というと大袈裟かもしれないが、階段を上り下りすることに、日中のモードの切り替えや家族同士の使い分けなどの暮らしの選択性が重なり、立面にもそれが表現されたように思う。

 

長屋を今日的な条件と均衡させることで、家か店という二者択一を迫らず、間を耕し、上下階の特性をより活かすカタチを模索した。同時に展開する取り組みがシン・ナガヤを育んでいけると、この町の、さらには日本の住まいは更新されていくだろう。

所在地:横浜市神奈川区白楽
用途:長屋
規模:100.77㎡
延床面積:181.03㎡
設計:山道拓人、千葉元生、西川日満里、坂梨桃子、箱崎慶伍/ツバメアーキテクツ
構造:木下洋介構造計画
設備:ZO設計室
協力:不動産コンサルタント アラウンドアーキテクチャー
ブランディング Takubo Design Studio
施工:山菱工務店
施主:やまむろ
竣工:2022.12
写真:中村絵
掲載:新建築 2023年2月号