虫村第一期工事

生活を耕す集落

虫村は、複数の住居と仕事場が同じ敷地内にある。多様な営みのある開かれた生活場をつくると同時に、地域の移住をサポートする実験場として藤野に計画中だ。母家、仕事場、三軒長屋の三棟からなり、現時点では母家が竣工しこれから他棟の工事が始まる。

敷地は中心市街地から15分の山中に位置する。都心から車で1時間半の距離でありながら、周辺には相模湖や陣馬山など自然豊かな地形が広がる。この地域は自然環境や教育を目的とした定期的な移住者がおり、人口が増え続けている。一方で、受け入れ先となる住居は数も質も圧倒的に不足している。自らも移住を検討する中で移住先探しの壁に直面した施主は、この地に家主として定住するとともに、移住初期の足掛かりとなる三軒長屋を敷地内に併設することにした。ここで移住希望者は2-3年の仮住まいをしながら、次のステップへと備える。さらにはなれとしてつくる共有の仕事場は、都市部からの短期滞在やワーケーション拠点としても使えるように計画している。都市的な暮らしと農的な暮らしの移行段階のバランスを、村を通して探っていく枠組みだ。

移住のもう1つのハードルは既にあるコミュニティとの関係だろう。ここでは建物や野良仕事が地域とのつなぎ役を担う。冬場の熱源として必要不可欠な薪一つとっても、周囲と連携しなければ確保できない。日々の生活、定期的な修繕、農作業を通して、敷地を超えて地域の関係性の輪に少しづつ参加する。1期工事で竣工した母屋は、友人や仕事先の人を含めいろいろな人が頻繁に訪れることから、部屋の中心に大きなホールを設け、レベル差によっていくつかのまとまりが隣り合う構成とした。ホールの端部には南北を横断するように外部から土間が入り込み、こどもたちが中庭-ワークスペース-裏の畑と行き来する遊び場をつくる。母屋、長屋、仕事場の3棟には、共通して泥部屋と呼ばれる半屋外を設ける。泥部屋は敷地内で採れた収穫物を洗ったり干したりする農作業場であり、道具を共有する工房であり、食事や団欒など日常的な活動の場でもある。広大な杉林に囲まれた屋外にはベリーや野菜、ハーブ畑、生活排水を微生物の力で浄化するバイオジオフィルター、アウトドアキッチン、堆肥小屋等を徐々に計画中である。移住先の住まいは新たな環境との出会いの場だ。住民は泥部屋や畑など人々の関係をつなぐ場を起点として、堆肥づくり、鶏の飼育、DIYなどを通して、暮らしの基本技術を身につける。個々が相互扶助の意識を持ち、コミュニティの自治からなる生活は、移住者の次の展開も後押しするものになるだろう。他者や環境と関係を持ちながら自発的な暮らしを育む村との併走は、これからも続いていく。

所在地:神奈川県相模原市
用途:住宅
規模:木造一部鉄筋コンクリート・鉄骨造、地下1階地上2階
延床面積:288.47m2
設計:西川日満里、山道拓人、千葉元生、櫻田康太/ツバメアーキテクツ
構造:金箱構造設計事務所
設備:ZO設計室
施工:創和建設
施主:中村真広
竣工:2023.3
写真:高野ユリカ
掲載:新建築 2023年8月号