東京、上池台に建つ夫婦と子供のための住宅。緑豊かで良好な住宅地だったこの地域も、ミニ開発によって窮屈な環境に塗り替えられつつある。この住宅が建つ55m2ほどの敷地も、細分化された土地の一角にある。幸いにして多方向に抜けが得られる環境だったので、それを活かして街の広がりを感じられる住宅にしたいと思った。
イメージしたのは、必要な諸室を納めていくというよりも、柱梁の架構を用意して、そこに適宜モノを設えていくことで外の環境との連続の中に生活のシーンを定着させていくことであった。架構は2×3スパンの単純なグリッド状の平面と、3.5層を半階埋めて半地下と地上2階建てとした断面で計画。埋めた分の天井高は2階に割り当てた。半階埋めたことで生まれた周囲との距離感を利用して、各階で視線が抜ける方向に大きな開口を設えたところ、北面と西面で市松状に窓をもつ立面となった。
隣地との間に植えた植栽、向かいの生垣、隣地の空地や道、空というように階を移動するごとに向きを変えながら景色が目に飛びこんできて、どこにいても外の広がりが感じられる。さらに、一部の架構を窓の外へ延長して、ベンチ付きのバルコニーや屋上テラスのパーゴラを設え、街に生活の様子が現れるようにした。
こうした計画のイメージは、基礎の上に柱、梁を組み立て、そこに防水、防火、断熱、眺望、美観、使用などの要件に応えるようにモノを設えることで住む環境を成立させるという、在来木造の建設のプロセスに沿っている。
つまり建築の覆いとなる架構の設定と、そこにどのようにモノを設えるかというテクトニクスによって建築のあり方が決定付けられるといって良い。現在、建築を取り巻く制度が整備され、それに応えるように住宅が産業化された商品となる中で、こうしたテクトニクスは隠され、つくられ方が見えなくなってしまった。その結果、建築のつくり方と住まい手のつかい方が響き合う、いきいきとした空間が失われてしまったのではないか。
つくるとつかうが連動するような実践的な状態をつくりたい。そのための方策として、建設のプロセスに紐付いた架構としつらえから捉え直し、新しいテクトニクスを生み出す方法を試案している。
ここでは架構はできるだけ単純に、しつらえはなるべく明示的な納まりに、外の環境と関係づけながら計画した。何で、どのようにつくられているのかが見て分かれば、モノへの興味が促されるし、付け加えたり減らしたり、状況に応じて変えていくといったつかうことへの想像力も喚起される。暮らしは時間とともに変化する。住宅とは現在進行形で、つくられて、つかわれる暮らしの総体そのものだと思う。
所在地:東京都大田区
用途:住宅/新築
規模:木+RC造 地上2階、地下1階建
延床面積:77.5㎡
設計:千葉元生、山道拓人、西川日満里、岡佑亮/ツバメアーキテクツ
構造:オーノJAPAN
外構:en景観設計
施工:山菱工務店
竣工:2018.5
写真:中村絵
掲載:新建築住宅特集2018年10月号