下北線路街 BONUS TRACK

主体性を促すつくり

[下北沢の街並みを引き継ぐ新築の商店街]

下北沢では、複雑に入り組む細い路地に個性豊かな小売店が連なることで、独特な街並みが形成されてきた。しかし、近年の賃料高騰により大手チェーンが増え、こうした風景が失われつつある。地下化した小田急線の線路跡地に建つ「BONUS TRACK」は、個人が小商いを始めやすい環境を生み出すことで、下北沢の街並みを引き継ぐ新築の商店街をつくる計画である。

 

[個人商店が入居しやすい区画設定]

個人が店舗を持続して構えやすいように、区画面積と賃料設定のバランスを調整しながら計画を進めた。その結果導かれたのが、一区画10坪(住戸5坪、店舗5坪)の兼用住宅である。全体は4棟の兼用住宅(SOHO棟)と、1棟の商業施設(中央棟)によって構成されており、SOHO棟のうち3棟がこのサイズの区画を三つ連ねた長屋である。中央棟は気積の異なる50〜140㎡の区画と共に、共用ギャラリー、シェアラウンジ、トイレ、ゴミ置場など区画の小さな店舗をサポートする機能を持っている。

 

[49%の余白]

職住近接の兼用住宅としたのは入居しやすい環境を生み出すと共に、入居者が実際に住んで当事者意識を持つことが、この場所を育てていくことにもつながるからである。兼用住宅とすれば、住宅地のうち49%は住宅以外の機能を持つことができる。この49%の余白を活用していくことで、住宅地をまったく別の環境へと生まれ変わらせることができないだろうか。「BONUS TRACK」は、ここでの枠組みを近隣の空き家活用へと展開していくためのロールモデルとしても位置付けられている。

 

[改変を促す設えと仕組み]

下北沢の街のように、入居者自身がこの場所に手を加え続け、育てられる場所としたい。そのために、改変を加えやすい設えを施すと共に、そのための仕組みづくりを行った。片流れ屋根の組み合せによる外形や分節された外壁、軸組み現しの内部空間など、建築は個々で完結しないように計画。更に仕上げを変えられる外壁や庇、コンクリートのカウンターなど、手を加えられるエレメントを全体に散りばめた。その上で、内装監理という立場で、どのような改変方法があり得るかを明確化し入居者に示すことで、積極的な改変を促すエリアマネジメントを行った。

 

[住宅地の中の雑木林]

このエリアはかねてより、不足している緑を増やすことが地域住民から求められていた。そこで雑木林の中の商店街をコンセプトに、緑をふんだんに配した外部空間を大きく設けた。この外部空間にはリースラインを設けていないため、各店舗が自由に家具やサインを設置できる。入居者にとっては小さな内部空間を補完する共用の庭であり、近隣の人々にとっては、民間の鉄道会社の土地でありながら、公園のような役割も持っている。

 

[アフターコロナの都市空間]

コロナウィルスのパンデミックにより、通勤を前提としたオフィス街とベッドタウン、内部の床面積を追求する商業ビルなど、機能で分化し経済合理性を追求してきた近代都市は機能不全に陥った。終息後には都市機能の再配分や、生活圏の環境の見直しが益々加速していくだろう。竣工と緊急事態宣言の発出が重なったが、職住近接、外部空間の活用を目指してきたこの施設は、店舗ごとの判断で徐々にオープンすることができた。近隣住民がふらっと散歩で訪れ公園のように利用する様子も度々目にした。これからの生活圏のあり方を議論し計画してきた「BONUS TRACK」は、早速その空間的可能性を示すこととなった。

所在地:東京都世田谷区代田二丁目
用途:兼用住宅・商業施設/新築
規模:木造2階
延床面積:907.4㎡
設計:千葉元生、西川日満里、山道拓人/ツバメアーキテクツ
構造:オーノJAPAN
設備:EOSplus、ジーエヌ設備計画
外構:en景観設計
サイン:COMPOUND
内装監理:千葉元生、西川日満里、森中康彰 /ツバメアーキテクツ
施工:山菱工務店
施主:小田急電鉄
運営:散歩社
竣工:2020.4
写真:山岸剛
動画:森中康彰
掲載:新建築2020年5月号
   商店建築2020年8月号