奈良井宿 古民家群活用プロジェクト 上原屋

金継ぎとしての態度

奈良井宿は重要伝統的建造物群保存地区として圧倒的な成功を見せている。しかし取り組みは主に街並み保存に対応するもので,個別の改修について構造・断熱補強の指針や用途変更・活用のtipsはない。街並み保存に軸足を置いた考え方が,あまりお金を落とさずに素通りする観光地の姿を定着させてしまったし,町全体で建物の性能の維持がどれほどなされているかには疑問を持たざるを得ない。

上原屋は、唯一無二の有名な寺社仏閣のようなサラブレッド古建築というよりは,200年の間,場当たり的に増築や改修がなされた構法や内装のスタイルが混在する民衆によるハイブリッド古建築であった。

民衆の町家を相手にするなら,観光地の目玉として成功すればいいのではなく,地域住民が改修時に参照できるようなロールモデルにするのが集落や町家のようなコモンズに関わる時の作法だと考えた。

資本が投下される場合,そういった均衡が,集落の未来を占うことになるだろう.以下のポイントを設定した。

 

・構造補強の種類を多く示し,実感できるようにする。

・仕上げを剥がし小屋組を見せる,といったこの集落にも散見される建物の性能を下げる改修のクリシェを避け,断熱層の厚みを生かした造形とする。

・アルミサッシは厚みを持った開口の奥に位置付ける。

・光を拾うような仕上げを行う。高齢化している左官職人でなくても気軽に採用できるようなDIY向きの塗料を選定した。

・通り庭やヒヤ空間(隣接する町家同士の隙間空間)を生かし,コモンスペースを設ける。

・間接照明などの演出を避ける。

などである。

 

既存架構を生かし,必要十分な追加要素が空間の主題に昇華する金継ぎとしての態度である。

トップライトから差し込む光が金色のパンチングメタル耐力壁を照らす,という関係はそれを分かりやすく伝えている。振り返れば宿泊施設に特化した設計はしていないかもしれない。ただ,この集落における,ある種の未来の日常を予感・体験できるならば,町家を活用した宿泊施設として十分に機能するのではないだろうか。

所在地:長野県塩尻市奈良井
用途:旅館
延床面積:167.51m2(木造棟)、143.05m2(鉄骨棟)
設計:山道拓人、千葉元生、西川日満里、川田実可子、櫻田康太/ツバメアーキテクツ
構造:オーノJAPAN
外構:en景観設計
サイン:NOSIGNER
サイン・アートワーク:
Palab(担当/山野恭稔・中里洋平)
Eko Hayashi(担当/林絵子)
協力:プロジェクトマネジメント:
竹中工務店
担当/仲井誠 高浜洋平
47PLANNING
担当/宮地達矢 柿澤貴恵
企画:
47PLANNING
(宿泊,飲食,温浴,他商業区画)
担当/鈴木賢治 宮地達矢
施工:野田建設
施主:ソルトターミナル・塩尻市森林公社
竣工:2021
写真:Nakamura Kai
掲載:新建築2021年12月号