この家にふたつのテーマを重ねようとしている。
ひとつは町家。辺りには古い町家が残るが伝統的建造物群保存地区には指定されておらず、ゆっくりと町家が消失している。そこで「リノベーションされて生きながらえた町家」というものを想像し建てることで、地域の町家群がこれから辿る未来に新しい世界線を切り開くことから考えた。町家型の構えを持ちつつも、駐車スペースを確保するべく曳家していて(新築だけれども)、中には天高の高いアトリエ空間をもち、即興的につくられた(ように見える)パーゴラの架かる中庭と、その先には作業場や収蔵庫に転用されて使われる蔵がある。周辺の町家は、ちょっとした物置場やガレージなどで拡張されていて、そういった一手間加えられた状態も参照している。建主夫婦の夫は、現代美術家の柴川敏之氏。代表作は、身近なプロダクトに、丹念に絵の具、灰、錆などを20層塗り重ね41世紀に出土した状態をつくるシリーズ。1層100年で20層重ねることで20世紀分の時間が経過する。氏の製作工程を参考し、全体をシルバーで汚したり、古材を磨いただけで床材に使用した。柴川氏の作品が喚起する未来であり太古であるイメージと、新しい町家の空間が共鳴することを狙っている。
もうひとつは公民館。このエリアは、公共の公民館や、住宅を改造した学童などの私設公民館的な建築がたくさんある。建主夫婦の妻の弘子氏はESD(持続可能な開発のための教育)研究者。市民活動が溢れるこの地が引っ越し先として選ばれた。その要望は「コンヴィヴィアルな家」。部屋と機能は一対一対応させず、常に自分達の力で考えて生きていくための器としてほしいという。複数の異なる使い方を同時に実現しつつも部屋としては固定しない、というあり方を実現すべく、町家型の断面シルエットの中にさまざまな質を連続的に配置していった。丸カンなど仕切りを止めつけられるきっかけを利用して奥行きを調整する。夫が奥で展示をし、手前で妻がワークショップを開催する、そしてその中を子供が駆け巡る、といった陣取り合戦を日々楽しもうとしている。
前者は過去と想像された未来を繋ぎ込もうとするいわば垂直の時間。後者は、まち全体で人びとが呼吸するようにあちこちでタイミングを合わせて離合集散する活動のための水平な時間。2種類の時間が流れ、建主の生き方がそれぞれ投影された公民館町家とでもいえるような家となった。
所在地:岡山市
用途:住居+私設公民館+ギャラリー+アトリエ
規模:木造 地上2階
延床面積:149.31㎡
設計:山道拓人、千葉元生、西川日満里、廣瀬 雄士郎/ツバメアーキテクツ
構造:木下洋介構造計画
施工:ホーム株式会社
竣工:2022.8
写真:中村絵
ツバメアーキテクツ(下二枚)
掲載:新建築住宅特集2022年11月号