よりよく迷うための環境づくり
2021年から始まった虫村プロジェクトは第二期工事を終え、建築工事としてはひとつの区切りを迎えた。現在は暮らしを実践しながら、敷地内の環境や敷地内外の人びとの関係性を少しずつ展開していくフェーズに入っている。第二期工事では既存の母屋に加え、三軒長屋とはなれを計画し、さらに灰屋と薪小屋を、設計者自身も施工に参加しながら製作した。本プロジェクトで重視したことは3つある。まず、移住希望者に対し受け入れ先が不足している藤野エリアにおいて、地域への移住を支えるための実験場であること。次に、ひと家族ひと住宅という居住単位を超え、他者や地域との関係性をつくること。そして、不完全なインフラと向き合うことで、循環型の暮らしを試行錯誤できる場を用意することである。
暮らしの選択肢を広げる長屋
長屋には3世帯が仮住まいで暮らす。ここでは移住を一度きりの決断ではなく、時間をかけて進むプロセスとして捉え、居住者は2~3年かけて、都市的な暮らしと農的な暮らしのバランスを探る。そのため、建築のつくり方は、誰でも真似しやすく、藤野の環境と向かい合ったつくりを目指している。具体的には1階の板間と土間を半々の面積とし、土間を屋外から続く作業や保管、団欒の場として使えるようにした。冬季は氷点下となることも多いことから、入口に置かれた薪ストーブを囲むように板間を設け、ちょっとしたやりとりは家の奥に入らずともできるようにした。2階は1,820mmスパンで中間梁を梁下1,900mmに抑え、家族構成や住まい方によって改変しやすい寸法としている。北側斜面に位置し、湿気が多いため、調湿性能のある漆喰を採用し、煙突効果で換気を促す計画とした。
前面の深い軒下と縁側は、住民が集まり食事をする場として、子ども同士の遊び場として、日々の野良仕事の場として使われる。複数世帯が住戸間を行き来しながら生活している中で、土間は暮らしの選択肢や家族の関係性を固定化されたものから、別の可能性へと開いているように見える。
エネルギーの条件を見直すはなれ
はなれは住民の仕事場であり、短期間の来訪者も滞在できる。1階の外壁は地域の焼杉経験者と施工者から三角焼きとバーナー焼きを教わり、設計者も材料づくりに参加した。2階は木材の匂いを抑えたり、カビの抑制が期待できる墨汁塗装としている。虫村では地域でよく見られる材料を各棟で用い、なるべく多様な仕上げとすることで、仮住まいの住民が経年変化を確認し、移住の参考にできる計画とした。また、太陽光パネル、蓄電池、雨水タンク、コンポストトイレを導入し、オフグリッド化を図った。自然エネルギーは恩恵も大きいが、常に十分な供給が得られるとは限らない。足りない時には使い方を見直し、他者と調整しながら暮らす必要がある。一見不便なこの状況は、供給に限りがあることによって、普段のエネルギーの使い方を改めて考え、私たちがエネルギーをどのような条件のもとで得ているのかを見つめ直す、ひとつのきっかけとなることを目指している。村全体の玄関にあたるはなれをオフグリッドとすることで、そうした暮らし方や感覚を、訪れる多くの人がより身近に感じられることも意図している。異なるグループが同時に使用できるよう、入口はGL+270mmとGL+2,820mmの2箇所に設けている。
働き方、暮らし方の価値観が揺さぶられ、家族の姿が大きく変化する現在、住宅は単独で完結する存在ではなく、仕事や地域、福祉と連続するものとして再考される必要がある。虫村は、本来は社会や地域と分かち合うべき、労働や子育てといった役割を家族やひとつの住戸が過度に引き受けてきた状況の輪郭を緩め、新たな暮らし方を探るための、開かれた実践である。
所在地:神奈川県相模原市
用途:三軒長屋+はなれ+薪小屋+灰屋
延床面積:197.65m2(三軒長屋)
81.19m2(はなれ)
設計:三軒長屋(ツバメアーキテクツ)
はなれ(ツバメアーキテクツ)
薪小屋(ツバメアーキテクツ+法政大学山道拓人研究室)
灰屋(ツバメアーキテクツ+早稲田大学山田宮土理研究室)
構造:三軒長屋(金箱構造設計事務所)
はなれ(DN-Archi)
設備:三軒長屋(ZO設計室)
はなれ(ZO設計室)
外構:ボタニカン
施主:中村真広
竣工:2025
写真:高野ユリカ、ツバメアーキテクツ(最後)
掲載:新建築202601